価格を上げても買ってもらえる?行動経済学で読み解く値付け戦略

「これだけ頑張ってこの値段か…正直、割に合わない」
「値段を上げたいけど、お客さんに離れられそうで怖い」
「競合より高いと選んでもらえない気がする…」
そんなふうに思ったこと、ありませんか?
これらの不安から、実際の商品・サービスの価値より低価格で販売されている方は多くいらっしゃいます。
商品・サービスそのものの価値はもちろん大切ですが、実は値段は「見せ方」と「感じ方」で大きく変わります。
今回は、人間の心理と経済学を科学する「行動経済学」をヒントに、
値段を上げても選ばれる価格戦略の考え方と実践方法を解説します。
「自己犠牲の上に事業を存続させる」このような状況から脱却するヒントになれば幸いです。
安さが売れる理由になる時代は終わった
かつては「安いから買う」という時代がありました。
でも今は、ただ安いだけでは売れません。
それはなぜか?
- 安くすると「安物(品質が良くない)」だと思われる
- 安くしても「また来る」とは限らない(安さで選ぶ客は他に安い店を見つければそちらへ流れる)
結果として、「頑張って売ってもお金が残らない」状態になります。
そこで必要になるのが、値段のつけ方そのものを変えるという発想です。
人は「基準値」と比べて価格を判断している
実は、人が値段を高いか安いか判断するとき、
絶対的な基準ではなく、最初に見た「基準値(アンカー)」で決めています。
これを行動経済学では「アンカリング効果」といいます。
たとえば:
- 1万円のメニューの隣に「3,000円のランチ」があると、安く見える
- 「通常価格6,800円 → 今だけ4,800円」と書いてあると、得した気分になる
つまり、人は商品の高い安いを直接的に判断しているのではなく、他と比較した時の印象で判断しているのです。
価格競争で疲弊しないための3つの方法
では、ここからはすぐに使える3つの戦略を紹介します。
1. 「おとり」を用意して一番売りたい商品を選んでいただく
これは「デコイ効果(おとり効果)」と呼ばれています。
例:カフェのドリンクメニュー
| 商品 | 値段 |
|---|---|
| Sサイズ | 300円 |
| Mサイズ | 500円← おとり |
| Lサイズ | 600円 |
このとき、多くの人は「600円のLサイズ」を選びます。
なぜなら、「MよりLの方が得」と感じるからです。
このように、あえて選ばれにくい商品を作ることで、本当に売りたい本命商品を相対的に際立たせ、お客様に選んでもらいやすくすることができます。
注意すべき点
・不自然なおとりは逆効果
あからさまな「おとり」は、お客様に見透かされてしまい、かえってブランドへの信頼を損ねる危険があります。自然で納得感のある設計が重要です。
・本命とのバランスが鍵
価格や価値の差が小さすぎても、大きすぎても「おとり効果」は発揮されません。お客様が比較して納得できる適度な差を意識しましょう。
・倫理的な設計を忘れずに
おとり戦略は、顧客をだますための仕掛けではなく、より良い選択を促すナビゲーションです。誠実さと信頼を前提に活用することが、長期的なブランド価値につながります。
2. 「無料」は集客効果があるが最も危険な価格
人は「無料」に異常に弱いです。
1円の商品より、0円の商品に強く惹かれます。
無料は非常に集客効果が高いですが、戦略的に活用しないと自社の首を絞める結果になりかねません。
無料戦略は配布する商品のコストだけではなく、顧客心理をも犠牲にする場合があります。
よくある失敗例
- 「無料だから…」と何となく来た人は、次にお金を払ってくれない
- 「無料サンプル」ばかり目当ての人が集まる
- 無料で提供したことで、「安っぽいもの」という印象を与えてしまう
対策
- 無料は高価格帯の商品・サービスを購入して頂くための体験の入り口として使う
- 無料にするなら、「無料の理由」を明確に伝えておく
- 有料化への導線をあらかじめ設計しておく
無料で終わっては事業は存続しません。しっかりと有料課金までの戦略を練ってから導入しましょう。
3. 「高い値段」は期待感を高める力がある
人は、「高い=良いもの」と感じやすい傾向があります。
行動経済学の実験では、同じ効用の風邪薬でも「高い薬を飲んだ方が効いたと感じる」という結果が出ています。
化粧品にも同様の効果があります。
つまり、高価格は「効果がありそう」「信頼できそう」という期待を作る力があるのです。
だからこそ、値段を上げる時は、
- なぜこの価格なのか、理由を丁寧に伝える
- 開発背景・ストーリー・専門性を先に伝えて納得感を得る
- 体験の前に情報を出す(例:事前案内・紹介動画など)
という期待を先に作る設計がとても大事になります。
もちろん価格に見合う価値を提供するということが大前提です。
期待値を裏切る行為は会社のイメージを損なう結果となります。過剰な期待を煽ることは避けましょう。
ちなみに高価格化粧品は「私は高い化粧品を使っている」という満足感も価値の一部として機能しています。
価格の見せ方を変えるだけで価値は上がる
あなたのサービス、こんなふうに「見せ方」を変えることも効果的です。
| Before(よくある表記) | After(見せ方の改善) |
|---|---|
| 1回5,000円 | 月1回のご褒美時間5,000円 |
| 月額9,800円 | 1日あたり約320円でプロのサポート |
| 通常価格のみ提示 | 通常価格+今だけ特典をセットで見せる |
「数字」+それを買う「意味」で伝える、「年額を月額へ」「月額を日額へ」細分化する、「限定サービス」を追加するだけで、お客様の納得感がまるで変わってきます。
安売りから脱却するために「比較対象と期待値」を調整しましょう
人は常に、「これって妥当?」と無意識に比べています。
だからこそ、何と比較されるか、どんな期待を持たれるかを設計することで、価格の受け取られ方は変わります。
値段を下げて売るのではなく、
この価格だからこそ納得できる状態を作りましょう。
最後に:価格は単なる数字ではなく、戦略です
「うちみたいな小さな会社が高くしたら、お客様は離れるのでは…」
そう思って、値上げに踏み切れない方も多いと思います。
しかし、価値ある商品・サービスを、価値のある価格で提供しないと、経営が立ち行かなくなるのもまた現実です。
価格は「安くしないと売れないもの」ではなく、「お客様に価値を伝えるための手段」です。
行動経済学はお客様を騙すための科学ではありません。
お互いに納得の価格で取引をするためのツールです。正しく使い健全な経営をしましょう。
こんなところから始めてみましょう
- 「一番売りたい商品」におとりを添えて価格を設計する
- 無料の使い方を見直し、「目的」と「導線」を明確にする
- サービス内容に「理由」や「ストーリー」を加えて価格を正当化する
- 「比較されたいもの」や「期待してほしい体験」を先に設計する
