
毎月の利益計画が実現する、戦略的な節税術
― 経理を「やらされ仕事」から「経営の武器」へ変える ―
中小企業の経営の現場では、会計・経理業務がどうしても後回しにされがちです。毎月の試算表をきちんと作成している会社もあれば、年に一度、法人税の申告直前になって帳簿をまとめて処理する会社も珍しくありません。
実際、社長の頭の中にはおおよその売上や資金繰りの感覚がインプットされており、多少経理が遅れていても会社の回転が止まるわけではありません。売上には直結しない面倒な経理業務は、つい後回しにしたくなる気持ちも分かります。
しかし、会計処理を「後回し」にしたところで、「楽になる」ことはありません。
むしろ、数カ月、あるいは半年以上前の取引内容を思い出したり、関連資料をかき集める作業に追われて、かえって手間と時間が増える結果となります。
一方で、毎月タイムリーに試算表を作成し、それに基づいて利益計画を立てて経営を進めることで、思いもよらない節税策が実現できることをご存じでしょうか?
この記事では、利益計画が節税にどう役立つのかを3つの具体的な観点から解説し、実際に活用できるノウハウをご紹介します。
節税に効く利益計画の3つの武器
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軽減税率の最適活用
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税額控除制度の計画的適用
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青色欠損金の期限内フル活用
1. 軽減税率の最適活用:利益をならすだけで税金が減る
法人税には「軽減税率」という制度があります。多くの中小企業はその対象であり、年800万円までの所得には15%の税率が適用され、それを超える部分については23.2%になります。
ここで注目したいのは、利益の出し方を平準化するだけで節税につながるという点です。
例えば:
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会社A:毎年1,000万円の利益を10年間継続 → 合計利益1億円
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会社B:500万円と1,500万円の利益を交互に10年繰り返す → 同じく合計利益1億円
この2社の税額を比較すると、A社の方が税負担は123万円も少なくなります。法人税以外の地方税等まで含めると、その差はさらに大きくなります。
つまり、同じ金額を稼いでも、「いつ稼ぐか」「どうならすか」によって税金は変わる。これは、利益計画を立てるだけで手にできる節税メリットです。
資産売却のタイミング、修繕費の支出時期、設備投資の分散など、調整できる要素は少なくありません。試算表を毎月作成し、利益の着地点を戦略的に考えるだけで、軽減税率の恩恵を最大化できるのです。
2. 税額控除制度の計画的適用:タイミングと利益のバランスがカギ
国の政策によって、法人税にはさまざまな優遇措置があります。代表的なものとして、以下が挙げられます。
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設備投資減税
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賃上げ促進税制
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DX関連の優遇措置
これらは単なる「お得制度」ではありません。制度を理解し、利益計画と組み合わせることで本当に使える節税ツールになります。以下の3点に注意が必要です。
① 節税の上限額に注意
多くの税額控除制度には、控除できる法人税額の「上限」があります。たとえば「法人税額の20%まで」と定められていれば、いくら要件を満たしても利益が少なければ恩恵は限定的です。
→ 対策:制度の対象になる年は、しっかり利益を出すようコントロールし、控除額を最大化する。
② 控除の繰越期間は短い
節税上限に引っかかって余った控除額は、翌年に繰り越せる制度もありますが、多くの場合は「1年のみ」。繰越期間を逃すと、その節税額は水の泡になります。
→ 対策:繰越控除がある年は、あえて黒字幅を拡大して使い切る判断が必要。
③ 適用期限を逃さない
どんなに要件を満たしていても、「1日」でも期限を過ぎれば無効です。制度は年度ごとに変わるため、最新の情報を把握し、適用期限に注意を払うことが不可欠です。
→ 対策:設備投資や修繕計画を顧問税理士と共有し、事前にスケジュールを調整する。
3. 青色欠損金のフル活用:10年以内に利益で回収を
法人が赤字を出した場合、その損失(欠損金)は最大10年間繰り越すことができ、将来の黒字と相殺することができます。
例えば、2025年に1,000万円の赤字を出した法人は、2035年までに累計1,000万円の黒字を出せば、法人税は実質ゼロに抑えられます。
これにより、35%の法定実効税率であれば最大350万円の税負担が軽減されることになります。
しかし注意すべき点:
期限を意識せずにダラダラ赤字が続けば、せっかくの青色欠損金が「期限切れ」で消滅します。過去の赤字を有効活用するには、期限を視野に入れた利益計画が欠かせません。
→ 対策:青色欠損金の「消滅期限リスト」を作成し、期限内に利益を出して相殺できるように利益を調整する。
月次試算表と利益計画は、攻めの経営に不可欠な武器
「どうせいつかはやらなければならない経理処理」。であれば、毎月きちんと行って「経営の意思決定」に役立てた方が圧倒的に得です。
試算表は単なる記録ではありません。
そこから得られる数字は、「これからの意思決定」にこそ価値があります。
例えば、
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税額控除制度の活用の判断材料に
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設備投資や修繕の時期を最適化する根拠に
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資金繰りの見通しと成長投資のバランス判断に
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赤字活用のタイミング見極めに
数字を見て動けば、経営の打ち手は圧倒的に増えます。逆に、後から数字を追いかけるだけでは、打てたはずの一手がどんどん失われていきます。
まとめ:節税は「後手」ではなく「先手」で勝つ
節税は、決算期末になってからバタバタ取り組んでも、できることは限られています。経理を「面倒な義務」として扱うのではなく、戦略的な経営ツールとして活用する発想が必要です。
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利益を調整して軽減税率を使い切る
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控除制度の活用には利益と期限の管理が必須
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青色欠損金は時間との勝負
これらすべては、「月次試算表」と「利益計画」なしでは実現しません。
経理を「やらされ仕事」から「節税と成長の武器」に変えてみませんか。